信号が青に変わったときのもどかしさゆえの異常な反射神経。


「ついたよー」
すぐ行く、と彼は言って電話を切った。
家の電気が消えて彼は玄関から出てきた。
運転を代わるつもりでシートベルトをはずしたのに、
彼は助手席に乗り込んであたしはシートベルトを締めなおした。
バイパスを通って中央区を目指す。
あたしは大博通りより天神側はこわくて運転できないので、
そこは途中で代わってもらうことにした。
「そういえば春からどうするん?」
「…NEET
「は?」
「新NEET
「冗談やろ?」
信じてもらえない。
眠い眠いと言いながら車を走らせる。
「ねむいー」
「眠ったらひっぱたくけん」
「あたしMだから多分普通にうれしいわ」
車内沈黙。
彼がCDを持ってきたのでそれをかけてみることにした。
Skoop On Somebodyの「潮騒」だった。
最初は知らないけどサビだけわかった。
でも途中で気まずくなって2番の途中でCDを入れ替えた。
元恋人同士にはあの曲は沈黙をまねきますのでご注意を。
あたしは彼と「好き」を共有するのは
相手を思ってじゃなくて他の物やことに関するときだけになった。


話をしているうちに博多駅に近付いたので信号待ちで
あたしが車内で移動できるように彼わざわざ降りて運転を代わってくれた。
彼のやさしさは「受験生」のあたしに対してじゃない。
彼の中ではそれが男として当然だったのかもしれないけどそれでいい。
あたしは大事にされてる気がしてうれしかった。
道がわからなくなったので彼の友達に電話をかけた。
「道がわかんない…」
「昭和通をー」
「過ぎた!」
明治通りをー」
「過ぎた!」
「じゃあ**まで行ってそっから***を左で直進して
 バス停がずっとあるからその通りにあるコンビニで待ってて」
「わかったー」
すばらしい(くらいに恐怖の)彼の運転で目印のコンビニまでたどりついた。
彼の友達はまだ来てないみたいでふたりでコンビニの中で待った。
彼の友達が来てから飲み物を各々選んでポテトチップスを買って移動。


「おじゃましまーす」
こたつに着席して3人各々携帯を触りだす。
一体何をしにきたんだろう。
テレビをぼーっと眺めて彼はうとうと。
彼は朝からバイトだと言うのでそのままにしておくことにした。
結局あたしは頭痛がするという彼の友達と朝まで喋った。


あたしも1時間くらい眠って6時になったので彼を起こした。
付き合ってたときよく寝起きの彼を見てたので
懐かしい気持ちになった。
「布団がねぇ…落ちるんよ…」
「そだねぇ」
「いつのまにかねぇ…落ちるん」
「ほら、ひろったげるよ」
「ありがとう…さむい…もうちょい…」
かーわーいーいー!!
6時半に彼の友達の家を出て彼が運転をしてくれた。
こわくて眠れなかったけど海沿いを走ったので楽しかった。
彼も少し眠ったとはいえ4時間くらいなので眠気を音楽でまぎらわそうとした。
SOTTE BOSSEのアルバムをふたりで歌っているうちに
そして8時前には地元のセルフのガソリンスタンドにいた。
あたしと彼で500yenずつ出して1000yen分ガソリンを入れた。
行く前よりが気持ちガソリンが多めになった気がする。
山崎まさよしのone more〜を歌いきる前に彼の家についた。
彼は3枚CDを持ってきてたのにあたしは2枚しか渡さなかった。
1枚はケースなしできっと忘れてるんだろうと思って、
あたしはもっと会う理由が欲しかったから忘れているふりをした。
彼は普通に2枚のCDをあたしから手渡され降りた。
「**(彼)が乗ったあとはいつもサイドブレーキかたいよ」
「わざとよ」
わざと…!
彼はあたしの車が見えなくなるまで家に入らず見送ってくれた。
家で仮眠をとって車の中を探してみたけどCDは見つからなかった。
彼はどっちかのケースに2枚CDを入れといたのかなぁ。


しかし、昨日から今日にかけてどうみても全面的にあたしのわがままです。
本当にありがとうございました。
でもふたりとも嫌な顔せずあたしに付き合ってくれてうれしかった。
予定をしっかり入れて全部全力で頑張ってよかった。
神様もたまにはあたしに優しい。