つづき。


「30分なったら起こして」
車内はしーんとしずまりかえって、
衣擦れの音でさえ響くような感じだった。


そして30分になって起こしても
彼はだらだらと時間を延ばして眠り続ける。
また言わなきゃ言わなきゃと
頭の中でつぶやき続けていると彼が目を覚ました。


「このぬいぐるみやるよ」
「わーい」
「とりにおいで」


これは彼がしかけた罠だったのかもしれない。
後部座席に移ると彼はわたしをくすぐりはじめて、
わたしは彼に触られたくて降参しなかった。
でも真剣にじゃれあった。
あとで青あざに気付くくらいの真剣さ。
あまりに力で押し込められてくすぐったいとか
そういう次元を超えてしまっていたのだけど、
耳は本当に弱くてやだやだと逃げ回っていた。
それが彼のドS心に火をつけたのか、
でも彼はわたしの2本の腕を片手で押さえ込んで
わたしの耳から手を離さなかった。
そして不意に彼はわたしにキスをした。
多分キスするのは1年ぶり。
彼とキスするのは4年ぶりだった。


そのあと座っていた彼にわたしから2回キスをして、
「これで回数的にわたしの勝ちね」
と挑発してみた。
すると彼はそれにのってくれて
わたしに覆いかぶさったかと思うと3回キスを仕返した。


しばらくして彼はまた眠りだして
わたしはさっきのキスの意味を少し考えていた。
15分くらいすると彼が目を覚まして
「エンジンかけてくれん?」
とわたしに頼んだので
わたしは体を伸ばしてエンジンをかけた。
すると彼はわたしを後ろからひっぱって、
そのまま押し倒されてしまった。
一応お決まりとしていやがってみたけど、
彼はわたしの腕を力で押さえつけて放さない。
「**(わたし)はやっぱりMやね
 いやがっとうのに顔がうれしそうよ」


そしてキスがくちびるだけじゃなくて
首にも降ってきて、
「襲われるばい?」
と彼はわたしに言った。
襲うつもり満々だろうに。
「俺は大丈夫やと思いよった?」
「うん」
だって今までずっと手を出さなかったじゃん・・・!
すると彼は少し考えてでもわたしに覆いかぶさった。
彼の手がわたしの胸に伸びて、
わたしはそのまま流されてしまいたかった。
でも
「わたしのこと好きじゃないならその先はしないで」
と彼を制した。
彼のため自分のため未来のために。
彼は少し戸惑っていた。



わたしは彼の下で彼をぎゅっと抱きしめて
「本当に好きやけん」
と言った。
告白とはこんなに意気込まないものなのか。
もっと一生をかけるようなものではないのか。
それくらいわたしにとっては清水の舞台から
飛び降りるほどの一大事だったはずなのに。
「しあわせにする」
でも彼は暗くてよくわかんないのに
複雑な表情をしているのがわかった。
彼は手を止めてわたしの話を聞いた。
なるべく不安をとりのぞいてみるように努力したけど、
なんだか彼は別人のように思えた。


時間はすでに5時に近かった。
彼はわたしの家まで車を走らせた。
途中無言になったりしたけど気まずいわけではなくて、
わたしの家の前に車を停めて
でもわたしはすぐに降りる気はなかったし彼もそうだった。
色々な話を聞いて彼は女の子を信用してないのだと思った。
「女の子は浮気する」
からはじまり、過去の浮気された話をいくつか。
それから彼が元カノのセフレ状態になっているという
いたらん暴露まで聞かされた。
その元カノを好きならまだしもこれといって執着もなく、
しかもその元カノには彼氏がいるらしい。
むかし彼女のいる男の人の好きだという相談をしたとき
「彼女がいるんやろ?やったら邪魔しちゃいかんやん?」
と諭した彼はどこへ。
感情がないからいいと思ってるのだろうか。
わたしにはそう思えない。
あと別の女の子に手をだしてその子を彼氏の家まで
送り届けた話も聞いた。
「なんしよるんやろうね、俺」
まったくだ。自覚はあるようだ。


「わたし人に触られるの苦手で
 お母さんでさえ触られるとぞわっとするけど
 **(彼)だったら大丈夫なの
 そういう意味でも大切なの」
触られるのは苦手だけど触れられないとさみしい。
だから嫌悪感がわかない彼の存在は貴重なのだ。
そして話も終盤にさしかかったころ、
「さっきの話、
 いま俺が触っても大丈夫とかいな?」
多分手を出そうとしたから
嫌悪感がわくのではないかという彼の予想だった。
「触ってみる?」
なでなで。
こんな朝のさわやかな空気の中わかんない。
そう言うと彼は笑っていた。


平行線でお互い譲らないまま、
だけど穏やかに時に笑いながら話していた。
時間はもう6時近くなっていて
彼は会社に行かなければならなかった。


「いつもどおり電話するし時々会う
 今までと違うところは
 わたしは好きって口に出すことがあるかもしれないこと
 彼はそれを適当にあしらってもいいこと」
これが一応の結論。
多分、人間としてどのくらい好きかが伝わったはず。
そうでなければ彼は電話や会うことを避けたはず。


車を降りるときに
「気をつけてね、
 っていうか気をつける距離でもないけど」
って言った彼が可愛かった。
わたしは彼の人を信じたいと思ってる部分にこたえたい。


そのあとは部屋で少し眠ったら意外に眠りすぎて
事務所の写真撮影に間に合わなさそうだったので、
社長に電話して体調悪いと嘘をついて
あしたにしてもらった。


思考がぐるぐるする。

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彼のにおいがする自分の服


制してしまった数時間前のわたしから
福岡に残ると決めたわたしの選択をすべて見直す

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夏休み突入してリア充すぎて日記がおそろか。
記憶があるうちに空いた日付を埋めたい。
今日バイト終わったら書く。