ずっと向き合って欲しいと思っていたのに、
いざそうなると逃げたくて直視できなかった。


夜中に彼からメールが届いていた。
もっともこわかったことが現実になった。
最終宣告。
彼に大好きな人がいるという事実。
彼は人を好きになったらとてもまっすぐだから、
取り戻せないのがわかりきっている。
4時半に目が覚めたら普通はまたベッドの中に潜り込むのに、
放心状態で携帯をただただずっと見つめていた。
時間が時間だけに電話をしたけど出なかった。


バスの中ではおさえてもおさえても涙が止まらなかった。
あんなに頑なな涙腺はダムの決壊のようになった。
彼に会って話をしましょうと提案するときちんと応じてくれる。
応じてくれるのはこわいことだ。
それだけの覚悟が彼にはあるということだ。
日を改めたいというあたしの提案は聞き入れてもらえなかった。
待たせてる待たせてると彼は何を焦っているんだろうか。
ただあたしのそばにいたくないだけじゃないか。
あたしが彼を好きな決心が揺るがないように、
彼が大好きな人を守りたいという決心も揺るがないようだった。
どうしたらいいの、と尋ねると
それは俺がどうこうすることじゃないよ、と返された。
もっともだ、もっともだよ。そんなの。わかってる。
でも。
勝手に舞台にあげといて台本も渡さずに置いていかないでよ。
きちんと幕を下ろしてどっか行ってよ。
彼は前の彼女にも大好きな人ができたことを言ったらしい。
そうしたら前の彼女もまだやっぱり彼が好きだった。
やっぱりそうだったんだ。
あたしは今の状態をどうにかしたい、と言った。
「だって、友達と思ってくれないからこっちだって割り切れないじゃない」
「それは俺をまだ好きだってわかるから応じれないんだよ」
この悪循環っぷり。
彼の大好きな人は同じ学校の人らしい。
でも誰かは訊かなかった。
前の彼女のことでさえ神経がとがってしまうあたしは、
きっといま彼が愛している人を見てしまったらもう自分の足じゃ立てない。
彼の話をすぐにも終わらせたそうな顔がこわかった。
こわかった。こわい。思い出したくない。
一度好きだった人にそんな風に接することができるなんて、
あたしは信じることができない。
あたしはもう当分まっとうな恋愛をしたいと思わない。
自分も相手もすべてを巻き込んで傷付ける自信があるからだ。


気の遠くなるほどの長期戦は覚悟しました。
欲しいと思ったからには多少ズルくたって手に入れたい。